いつもの通り、家に帰り、いつもの通りセット(風呂・夕食等)をすませ、 自分の部屋へと戻る。勉強……試験ギリギリで田島と一緒に悩む。本当はそれじゃいけないんだけど。今日は後悔する自分の姿を無理やり消した(自分の隣で「えー」とかブーイングする田島も容易に想像できている)。今日は、今夜だけは、考えないようにした。
23時。23時半…0時。0時過ぎ。

 家はしぃんと静まりかえっている。

 窓を見ると月が出ている。風は…帰ってくる時は少しあったけど、今はないようだ。カーテンは開けておいた。もしかしたら…と思ったのだが。
 いつも0時を越える前に完全に眠りについている三橋の目はすでにしょぼしょぼして、眠りの妖精がばっさばっさと砂をかけている。

 むり、かなぁ?

 うとうとうと…

 ベッドの端に座って待っている。最初は椅子にして座っていたが、だんだん体温があがってきて、周囲が寒くなってきて、気づいたら体育座りで膝にデコ置いた姿で起きてると寝ているの狭間を漂っていた。

 たじま くん とべた かなぁ… ?

 メールか何かできけば良かったなぁ、と思って我に返る、が、また睡魔が引き込もうとする。

 電話しようかなぁ。でももう夜遅いし…。

 ぽて。

 体育座りの姿勢のまま、横になってしまう。限界であった。

 どうしよう か ……

 そのまま墜落睡眠に落ちるその瞬間。


 コンコン。


 窓の外から、音がした。

 ぼんやりそれを耳に入れ、意識を浮上させる、が、また落ちる。
 今度こそ寝入ってしまう、その時。
「みーはーしー。」
 いつもの声。ただし、いつも近くにいる声が、少し変。

 ヘンだなぁ…なんで窓からたじまくんの声が?
 窓?
 まど……          ?

 ……………………!!

 がばっと起き上がって窓を見る。
「おー、起きたかー、みっはしー。」
 にかーっと笑う田島。窓にいる。
 ただし。三橋の部屋は…。
「そ、そら………?」
「おぅ!ホントに飛んでるぜ!」
 …2階だ。

 それでも三橋は窓をガラッとあける。外から入ってくるのは夏の記憶をすっかりと忘れた秋の風。もうすぐ冬を教える、関東特有のからっかぜ。知らず、 三橋はぶるりと震える。普段着だ。
「みはしー、その格好だと寒いからなー。厚着してこい。」
 窓からふわりと入ってきた田島の格好は…もこもこだった。
「ごめんな。オレも早く空飛んでみたくて三橋のよーな格好して試してみたら、風邪ひきそうなくらい寒くて、これでもかーっ!ってくらい厚着してたんだ。」
 だから遅れた。ごめん。と、ぱしんと両手をあわせる。いいんだ よ。といつもの口調で返すと、田島もニカーっといつもの笑顔で、そっか、と返してきた。これでおしまい。
 トロトロしている三橋の着替えを手伝い、モコモコになった二人は窓際へと寄る。
「この石を、右手に持って。」
 水色の石。田島の右手が握ると、小さな光を指の隙間から放つ。
「う わぁ。」
「…で、三橋の右手を握る…お!」
「わ……ぁ…」
 二人、宙を浮いていた。田島の言葉通り、ズボンを二重にはいたのは正解みたいだ。
「いくぞー!」
「う うん!」
 手ェ離すなよー、と言いながら、田島は窓をあけ、すぅっと外へ出た。
 右手が引っ張られ、三橋もそのままの勢いで外へと出る。
「窓はちょっとだけ開けておいて…。よし、夜のお散歩だ!」
「う ん!」
 すぅぅぅぅっと、二人は空へと進む。


 夜は暗いかと思いきや、満月だった。おかげでこの位置からも下の風景は良く見えた。
「い いま…どのくらいの高さ か なぁ?」
「さぁ?わかんね。」
 もっと、もっとといわんくらい速度をあげ、そして高度をあげていく。どんどんと冷えていく。でも、楽しい。
「紐無しバンジー、いってみっかー!」
「ひ、ひも……え? わぁっ」
 飛んでいた勢いがいきなりなくなり、重力が二人を襲う。
「うひゃぁははははははは…!」
「ひぃぃぃぃぃぃぃ…」

 田島の左腕にしがみつき、半泣きになっている三橋と楽しそうに笑っている田島。だんだんと地面が分かるようになって、だんだんと車が見えるようになって、だんだんと人が見えるようになって…。

「…っとぉ。」
「…っ!」

 田島は落ちるのをやめ、また空へと急上昇。
「楽しいな!」
 左腕にしがみついている三橋を見て、楽しげに話しかける田島。こんな必死にしがみついてるからもしかしたら…と思っていたが。
「う ん!」
 三橋も目をキラキラさせていた。どうやら絶叫マシンは楽しむタイプらしい。急なことに驚いた。というところか。
 それからジグザグ走行、急スピード、急ブレーキ。普通の車では到底できないことをとりあえずやった後、ゆっくりと月の光を背から尻に向け浴びながらややゆっくりめのスピードで空を、飛ぶ。
「ジエータイの戦闘機とか飛んできたら楽しいな。」
 目をきらきらさせながら田島が言う。確かに入間基地が少し遠くだが見える。人間二人ならレーダーにもひっかからないであろう。
「さ さいしん… かなぁ?」
「そーじゃねーか?ボーエーヒいっぱい使ってるんだから。」
「そ…だね。」
 三橋の目もきらきら光る。空中で、にかっ、ふひっ、と笑いあって、飛ぶ。
 なお、入間基地には自衛隊はいて、航空ショーも行われるが、周囲を住宅地が囲んでいるために戦闘機はいないということを二人が知るのは二日後、沖からの説明の中のことである。
 じょじょに二人の足元が光から闇へ、そして月の光によって稜線がくっきりと露になってくる。山。
「みやげ持って帰ろーぜ!」
「う ん!」
 ゆっくりと高度を落としながら、山で着陸できる場所を探す。
「たじ まく ん、あそこ は?」
「おぅ!あそこにしよう!」
 ふわり、と降り立つそこは草原。

 月の光を浴びて揺れる草。

 足元を見ると。
「……?」
 なんの花だったか、とりあえず、綺麗な花。近くを見回すと、その花が枯れ
、草のみになったものが多くなっている。どうやらシーズンはずれてしまった
が、今年最後のその花に出会えたらしい。
「8本だろ?モモカンは…?」
「…夜おそく まで 飛んでたか ら 握られる か も…。」
 その言葉に二人沈黙したあと、同時にぶるっと体を震わせる。
「…………やめておこ。しのーかと浜田にはやるから、この花10本持って帰ろうぜ。」
 うん。と三橋は頷き、花を摘む。地面スレスレに咲いている花は、なかなか探しづらい。今日が満月で良かったなぁ、と思いながらも花を摘む。
「何本?」
「…5本。」
 ややあって問いかけられた言葉に、左手をパーにして答える。
「オレも5本。ピッタシ!」
 ニシシ、ウヒッ、と特徴的な笑いが草の中の風と戯れる。
「よし、帰ろうぜ!」
「う ん!」
 二人はまた、手をとりあって、空へと飛び出す。

 満月が、もう、地面につくくらい、低くなっていた……。
「楽しかった〜。ありがとう、三橋。」
「う うん。 遅くなっ て ごめん な さい。」
「いいっていいって…。」
 三橋の左手には、10本の花がしっかりと握られていた。



「なにやってんだ?栄口。」
 その花を握り締めて、図書館からこっそりパクッてきた植物図鑑を見ている栄口に巣山は話しかけた。
「いやぁね、二人とも夢見がちなお年頃だから…。」

 三橋から誕生日プレゼントもらったんだ。そのおすそわけ。二人で摘んだんだぞー! な、三橋。

 う ん。

 朝の会話が思い出される。

 なに、本当に空飛べたのか?

 おぅ!あー、泉も誘えばよかったな。
 そう だ ね。 で も…
 ああ、そうだな。上空から泉ン家探すの難しそうだったもんなー。他の家も
難しかったし。オレ、三橋ン家も上空から探すのちょっと手間取ったよ。
 田島くん 家 も なかなか…。ふわぁぁ。
 そーだな。帰りヤバかったもんなー。ふわぁぁ。


 嘘。と泉を除く全員が顔色を変えた、今朝の報告。
 珍しく寝坊してきた二人に花井が問いかけると二人同時に言った言葉は。

『空、飛んでた。』

 だった。で、土産、と言われて渡されたのが、この花。
「リンドウ…だよな?」
 巣山が恐る恐る尋ねる。
「うん。でもあの二人が花の先端だけとってくるはずがないし…。」
 ぶつぶつと呟きながら、栄口が図鑑をめくる。
「あ、これだ………………」
 言って、絶句する栄口。なんだなんだと図鑑を見て、その内容を読んで、硬直する巣山。
 図鑑にあったのは、リンドウはリンドウでも、自分たちが見知っているリンドウではなく、高山植物のオヤマリンドウであった。
「そう言えば、周囲はみんな花が枯れていたっ…て言ってたけど…。」
 花のピークは9月。今10月。良く咲いていたと思う。ここら辺には高い山はない。もっと秩父とかそっちのほうへ………………
 思って、巣山は絶句する。イヤだ。答えたくない。
「リンドウって、普通のだと背が高いんだよ。おかしいなーって思って図鑑を持ってきたんだけど…。」
 あいつら、嘘つかない、というかつけないもんな。と苦笑…というか、ひきつり笑いで話しかける栄口。
「………嘘じゃない。ということは………。」
 巣山の言葉をばっと栄口の手が押さえる。
「やめておこう。あいつらの存在がただでさえファンタジーなのに…。」

 これ以上ファンタジーになったらどうする?

 その問いに、巣山もぐっと詰まった後、そうだな。と答える。
 とりあえず、3〜4時間目の間に7組から伝わってきた話によると、田島と三橋は何しても起きないらしい。殴っても起きねぇよ。朝のホームルームから寝っぱなし。とはため息まじりで言った泉の言葉。多分、そのまま流れてきたのだろう。
 ぱたん、と栄口が図鑑を閉じた。
「今回の話は、これでおしまい。」
 とりあえず、放課後はまだ半分寝ている三橋に怒鳴る阿部をどうなだめるか、花井と相談する必要がある。
「んじゃ、ちょっと図書室行って来るついでに、花井の所寄ってくる。」
 苦労するな。と巣山が苦笑している中、栄口が立ち上がる。
「とりあえず、現実を見ないと。」
 ファンタジーはあの二人だけで沢山だ。と言いながら、1組を出て行く。
 巣山はその背中を見ながら、栄口はもしかして、ファンタジーとクレイジーを同義語として扱っているのではないかと思ってしまった。だが、それはちょっと首を振って否定する。

 クレイジーだったら3人になるもんな。

 阿部とか阿部とか阿部とか阿部とか。
 とりあえず、田島と三橋のファンタジーだったんだ。で無理やり結論をつけると、巣山は次の授業の教科書を取り出した。

 とりあえず、自分たちは現実を見ていこう。寝ている二人のためにも。

 近くなってきた期末テストに。そして悪夢の一週間を考えて、はぁぁ。とため息。
 ため息の先で揺れていたのは…オヤマリンドウ。
 その青さが、夏の空の青さと似てて、遠くなった空を窓から見る。

 冬が近づいてきた、柔らかい日差しが、とりあえず、現実ということを認識させてくれて、巣山は今度は何故か、ほっと安堵の息を漏らした。

 世はとりあえず。事はなし。多分。


                                   おしまい。


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ありがとうございました。田島企画、本当はもっとスケールでかかったんですが、ちょっとしたことにより、ファイル削除までやりました。
久々だ。
どうしてもこの曲で書きたいと思ってからはや何年。
とりあえず、この曲で楽しませてくれてありがとう、田島くん。おめでとう。
余談ですが、この次の曲は、幻想水滸伝で使っている「氷の回廊」だったりします。
うーん、マイルド。