同じ中学だった栄口と、えんえんとグラウンド作りにせいをかけている。辺り一面草ぼうぼうだったが、ようやく内野、外野まで整備が終了した。
阿部はグラウンドの端にある土をバケツに入れ、黙々と作業を進めている。ある程度土が来たところで、栄口が「休憩をとろう」と言い出した。阿部は無言で頷いた。
「あれ、ピッチャーマウンドだろ?」
「ああ。」
ジュースと菓子をつまみながら、二人は会話をかわす。
「西浦高校は、今年から硬式が入る。だから部員は1年生のみ。」
で、と栄口はくぴ、とペットボトルのジュースを一口飲み、
「キャッチャーとセカンドは決まっているだろ?」
「まぁ、な。」
阿部もごくり、と一口飲む。炭酸が喉に焼ける。
「でも…」
「でも?」
阿部がぽつりと言った言葉に栄口が尋ねる。
「投手が来なかったら…野球にならない。」
そう。西浦は1年生だけの野球部。入学ホヤホヤが入ってくる。無論、野球のやの字も知らない者も入ってくるだろう。だが、投手は違う。中学やシニアで練習してこなければ、高校ですぐに投手ができる、というわけでもないから…。
阿部はシニア時代、投手にあまりいい思い出がないようだった。自分の入っていたシニアは友達づきあいが割合活発で、結構みんなでつるんで遊んでいたが、阿部のほうは違ったようだ。ピッチャーはどう?と昔聞いたことがある。一言「最低」と返された。しかもすごい形相で。
「いいピッチャーくるといいな。」
「…………」
「みんな仲良くなるような、いいピッチャー。」
「…………」
「すぐに友達になれるような、ピッチャー。」
「…………」
「そしてすごい腕前のピッチャー。」
「…望みすぎじゃねーか?それ?」
はは、そう思う?と楽しそうに笑う栄口。最後の一口を飲み終えて、ゴミ箱に捨てる。
「でもさ、言葉にしたら真実になるっていうらしいよ。」
ははは、と笑いながら栄口はもとの作業へと戻っていった。
(友達…ねぇ…)
ピッチャーマウンドに土を盛りながら、阿部はずっと思っていた。
(首振るようなヤツは絶対に嫌だな)
寧ろ従順。そしてコントロールがいい。それは必須条件。
(それさえあれば、ピッチャーがどんな性格だろうが関係ない。)
そうだ。親しくなる必要性もないのだ。
ピッチャーマウンドを仕上げていく。
栄口とはもう腐れ縁になるだろう。入ってくるヤツともどうにかやっていけるだろう。
だが…投手とは…………真っ暗闇の中。
(まぁ、夜明けがこない夜はないっつーから。)
彼は、夜明けの前が一番暗いということを知らなかった…。