せりふは読めない、何をするかも覚えない。ないないづくしの二人に困ったのはやはりクラス委員の浜田だった。
昼休み、もう一人のクラス委員と演劇部、文芸部の二人と大道具、小道具の責任者を集めて話し合いとなった。
セリフあわせは何度もやってきた。だが、三橋の口調に田島の読み間違いはもうどうしようもないレベルであることははっきりした。
「なら、これから全部カセットで録音して、どもっていない三橋の時と読み間違えてない田島と喧嘩腰になっていない泉のセリフ…いいや、全員のキャラクターを録音しちまえ。」
投げやりに言ったのは演劇部員。自分のほうも忙しいのだが、役はない上に当日まで使いっぱしりが決まっていたのでこっちに集中できるのだ。
「それはいい考えだな。よし、誰か明日にでも録音できるカセットレコーダーを用意してくれ。」
はーい。とクラス委員の女子から手があがる。カセットは…どうにかしよう。
「カセットに録音したら、パソコンでいじってある程度の雑音は消せるぜ。」という近くにいたあたたかいパソコンヲタなクラスメイトの言葉にさらに盛り上がる。
「配役を少しいじろう。…と思ってんだが。」
浜田はそう言った。なになに?と近くにいた者たちが集まる。どうやら三橋や田島、泉のように昼休みを睡眠にあてている者以外は全員浜田たちの話し合いに耳をダンボにさせていたらしい。
「他の二人もオレも泉も…まぁ、いいだろう。だけど、あの二人に演技指導しているヒマはない。」
確かに。と全員が頷く。
「そこで、黒子を用意しようと…。」
「あ、なる。近くでぽそぽそと話して、動作して。」
「そうそう。そんな感じそんな感じ。」
ポンポンと話が進んでいく。
「それなら演劇部と文芸部、お前ら二人な。」
「そうだな。」
「ああ。」
「いいよ。」
阿吽の呼吸。
「立ち位置とかは徹底的に覚えさせねぇとな。」
うんうんと頷きあう演劇部員と文芸部員。
「おい、浜田。衣装のほうは?」
「ああ。オレは自分のはまわし着とかでどうにかなるから…田島と三橋の「ミニ」と泉と田島と三橋の普段着と三橋のリュックか。」
「泉はビミョーだけど田島と三橋は女子から完全に借りられるんだろ?」
「ああ。今日の放課後、衣装合わせ。オレも持ってきてる。泉は女子とのコラボだとぶちぶち言ってたな。」
「リュックとかは手芸部に頼んだんだろ?」
「ああ。羽根のプラスチックの成型は化学部員に頼んである。…三橋がヒモでくいくいと動かせるかなぁ。」
「…電動だな。」
すでに三橋の行動パターンを知り尽くしている9組の者たち。それもこれもあの三日間があったおかげだ。さらに三橋研究は進んでいる。おかげで三橋とかなりコミュニケーションがとれるようになったのだ。
「…リュックの中に仕込むのか。ま、頼んでみよう。」
「今帰ってきたぞ。聞いてやろうか?」
「ああ、頼む。」
「あと浜田、大道具についてなんだけど…。」
話は尽きない。あーだこーだ言っている間に昼休みは終わってしまった。
んで、放課後。
クラスのカーテンというカーテンをしっかりひいて、衣装合わせは始まった。
「ミニ」の時の格好の田島はただでさえ高校生に見えない田島を中学生に見せ、周囲を沸かせた。
自分の服と女子の服のコラボの泉は始終プリプリしていた。
浜田の女装は…周囲がヒいた。母親役が主人公より背が高く体型が男なのだ。でも、まぁ、これは予想範囲内ということで、ということでめいめい頭の中で決着をつけていた。
だが一人、予想範囲外がいる。
衣装合わせはなんと鬘が借りられるという嬉しいハプニングがあり、田島ともう一人男役をやる者以外はつけることになっている。クラスメイト一人と、泉と浜田と、三橋である。しかも全員ロング。女子に頼んでみつあみにしてもらっている浜田の姿は…笑えなかった。
そんな中、キャー、という悲鳴がおこった。
なんだなんだとそっちを向くと、三橋の着替えを手伝っていた女子が口々に「くやしー」と言っているではないか。
「どしたん?」
田島がひょこっと見ると、困った顔の三橋。いや、困った、というか、戸惑ったというか…。
「あたしのスカート、スカスカなのー!」
なるほど。と女子は思った。それはめっさ悔しい。
「しゃーねーな。三橋、ベルト…」
「う…や…ぶ…な…… よ…」
「野球部用しかないのか。じゃ、それ使っちまえ。」
『それだけはダメーっっっ』
女子の悲鳴は7組まで響いた。
「…できた。」
女子がふぅ、と息をついた。どれどれ、と全員が見て、硬直した。
「…みは、し?」
茶色の鬘にカチューシャ、コートにスカート姿。羽根のついたリュックを背負ったのは…確かにさっきまでその場所には三橋がいたから…。
「三橋、セリフ、一言、言ってみて!」
クラスメイトの一言にギョクッと固まったが、ややあって、小さな声でも、きちんと言った。
「うぐぅ」
クラス全員が拍手喝采。機嫌が悪かった泉もその中に入っている。それほどまでに三橋のできばえは素晴らしかった。
「三橋くんの「ミニ」版はこれと似てるから簡単だね。」
うんうん、と頷く女子。
ひとしきり感嘆していたクラスメイトたちも浜田やそれぞれのトップに従いながら仕事をする。
文化祭準備のためにグラウンドを使用する体育会系は全て休みになっていたので、三橋と田島と泉はぶーたれながら(時折彼らがグローブを持っていなくなっていたのは浜田の頼みでクラスメイトに大目に見てもらっていた)、練習に打ち込む。
それが何度か繰り返され、そして出来上がり…
そして、文化祭が始まった。