「オレ、スゲェ歌、つくっちまったんだよねー」
 ニヤッと笑いながら田島が笑った。
 部室の中には阿部と三橋以外、全員が集まっていた。

 どうせなら、そののーみそを勉強にあててくれ、と花井は真剣に思った。
 どーりで5限目、一生懸命起きてたんだ、と泉は思った。
 どーせバカな歌なんだろ?と水谷は思った。

「タイトルはー…」

 でも天然脳天気、田島の言葉に全員の視線が集まる。

「…阿部のテーマ!」

 オレってすげーっとぴょんこぴょんこ飛んでいる田島に花井がさっさとその話を終わらせようとする。
「なら、歌ってしまえ、阿部が来る前に」
「おお!」

 元気よく頷いた田島。リラックスの姿勢、肩幅に足を開いて腕はだらんと横。

 口を開いた田島の声は…意外にも、美声だった。

 曲はチューリップだが、最初からもう違っていた。



  みーはーしー みーはーしー あそーこーにー みーはーし
 みーはーしー みーはーしー そぉーこに   みーはーしー
 いつでも シセン はー ミーハーシーレーンー♪



 
ガチャ


 瞬間、ドアが開いた。
 全員がその音に振り向く。入ってきたのは…阿部。
 きょろきょろと見回して最初に言った言葉は

「あれ、三橋、まだ来てねぇのか?」


 沈黙…


「?」
 何が起きたんだ?と問いかけようと阿部が口を開こうとした時

「…ぷっ」
 沈黙を破ったのは、泉だった。
「どわははははははははははは」
 次に指さしながら笑うのは、栄口。
 阿部と田島以外、その場で笑っていなかった者はいなかった。
 水谷に至っては、地面につっぷして、どんがどんがと床を叩いて笑い転げてる。
 花井は阿部から後ろを向いて、俯いている。耳が赤く、背中が細かく震えている。



 なんなんだ、一体!


「たーじーまー、なんかやったろー」
「おしえなーい」
「なんかやったな、なにやったか言ってみ…」
 近くであさっての方向向きながらピューピュー口笛吹いている田島に詰め寄ろうとした次の瞬間。

「こんっにちっはっ」

バタン

 再度ドアが開いた。ふわっふわの茶色い頭、三橋登場。
 瞬間、阿部の視線が三橋に変わる。その瞬間も全員が見てしまった。

「ぶわはははははははははははははははははははははははははははは」

 今度こそ完全なユニゾンの笑い声。花井も耐えきれず、腹抱えて笑っている。
「た…たじま…グッジョブ!」
 水谷がヒーヒー言いながら親指をあげる。
「サイコー…田島、言うことナシ」
 泉も目から涙を流しながら親指をあげる。

「…どういうことだ?」
 キョドる三橋をなだめつつ、阿部がつめたーい視線で田島に問いかける。
「んー、『阿部のテーマ』を歌ったんだ」
「はぁ?」
 キョドっていた三橋も田島の言葉に振り向く。
「いやぁさ、阿部って、一点しかみていないよーな感じでさ、という話を小兄ちゃんに話したんだ」
 そしたら、そーゆー奴はこーゆー歌みたいな奴なんだ、と教えてくれた。と朗らかに言う。
「ほぅ、それはまた…なら、歌ってみせてくれよ」

 ギラリン☆と阿部の目が冷たく光る。瞬間、部室の温度が氷点下まで下がる。あの歌を歌うのか?

「いいぜ!」

 ふふふん♪と笑いながら歌う姿勢をとった後、田島は朗らかに歌い出した。


 チューリップ チューリップ さいたよ チューリップ
 なーらんだ なーらんだ あーかーしーろー きーいーろー
 どーのーはーなー みーてーもー チューリップー


 
さっき程の威力は無くても、何故か今度は全員が納得してしまった。確かにそんな感じ。
「阿部、チューリップ以外の花知ってるかよ」
 ふふふん♪と田島が詰め寄る。
「しらいでか!」
 一歩離れて阿部が怒鳴る。
「なら言ってみろよ」
「ンな急に言われても…」

「…ソメイヨシノ!」
 その時、三橋が手をはいっとあげて答える。その言葉に田島が三橋を見る。
「おお、三橋は阿部より花を知ってるな!」
「うん…修ちゃんが教えてくれた」
 その言葉に阿部の周囲から冷気が漏れ出す。
「でも、俺、もっと色んな花しってんだぜ!」
「へ、へぇ!」
 三橋のすごい人光線が田島に向けて発射される。
「まず稲の花だろー、ナスの花だろー、カボチャの花だろー…それに…」
「田島くん、すごい…」
 三橋の目はキラキラだ。

 だが、全員はきづいていた。

(こいつんち、農家だからなー)

 花が、全部農作物であることに。
 静かに阿部が冷気を放ち、三橋がキラキラ目で「すごい、すごい」と連発している時、花井はようやく人格を取り戻した。
「おい!時間がないぞ!」
 その言葉は全員の心のスイッチを押した。
「おい、三橋、早く着替えろ」
「ううう…うんっ」
 手早く脱いで着替える阿部にもたもたしながら着替える三橋。
 阿部の視線は最低限の自分の確認以外、三橋から動くことがない。
「んじゃ、先にー」
「俺もー」
「おれもー」
 慌てふためいている三橋を手伝いながらその言葉を背中に受け、阿部は無視。
 だが、ドアを閉めた瞬間にそれぞれの笑い声が聞こえたのを、阿部は聞き逃さなかった。

    誰に聞けばいいか…

 頭の回転が急激に回り出す。よし、クソレフト決定。
「三橋、行くぞ!」
「うっ、うん!」
 時刻をみればギリギリ。慌てて二人は外へと出た。



 その後、一週間、水谷くんは、阿部から「クソレフト」から「レフト」を抜かれた言葉で言われることとなる。
 だが、田島の歌のとおり、阿部の視線は三橋から離れることはなかった…。

                                                 おわれ。


                                                       初小説。チューリップの替え歌は大学の時に作りました。うけけ。