実は、1年9組のクラスのほぼ全員が、とある3人組にこっそりと注目していたりする。

 一人は歩く大騒動 田島。
 一人は歩く毒吐きストッパー 泉
 一人は常時挙動不審 三橋

 彼らはいつも一緒。お弁当食べてる時も、何する時も一緒。こらまた仲のいい3人組である。
 なお、田島と三橋に話がある場合は泉に最初にアポをとっておくというのは基本である。田島は脱線するか大暴走するか。三橋はキョドるか泣くからだ。

 良くも悪くも目立つ3人組。


  でも、ちょっと待って。

 …み、三橋一人?

 

「法事で、3日間休みとるから。」と田島、三橋、浜田へと言いのけたのは泉だった。
「いつから?」
「明日から。」
 時は昼休み、すでに全員食べ終わり、三橋がマンゴーラッシーをちるちると飲んでいる、平和な時。
「へー、じゃあその時は全部休みだ。」
 何をいまさら、と全員が田島を見るが、田島は三橋から「飲ませて〜」とマンゴーラッシーを奪うとちるちる飲み出す。「あ、う…」と三橋の声が困ったちゃんになっているのは気のせいか?
「というわけで浜田。」
 ずずい、と泉の顔がどアップになる。
「こいつらの保父、頼んだぞ。」
 背は小さいのに、顔はカワイイ系に入るのに、浜田よりももしかしたら漢かもしれないと目下の噂の泉がすごんだ。
「…は、はい。」
 一年年上なのに、何故か萎縮してしまう浜田。
「あ!」
 その言葉に全員が田島のほうを向く。
「なんだ!田島?」
 嫌な予感がして泉が尋ねる。
「ゴメンなー、三橋。全部のんじまった。」
 ぷらぷらとマンゴーラッシーの紙パックを振る田島。
「う…あ…………」
 信じられないっという顔をした後、三橋の目からぼろぼろぼろと涙が落ちる。
「買ってこい、田島。」
 ぼかっ、と頭を殴りながら、泉が命令。
「俺のは…緑茶だからなぁ…。」
「使えねぇ。」
 泉の一言。痛い。
「オレ、金持ってないもん。」
 あっけらかんと言うが、さりげなく田島はごめんごめん悪かったと三橋を宥めている。

 次の日、マンゴーラッシーといちごミルクをおごるということで、田島の「マンゴーラッシー全部飲んじゃったよ事件」は幕を閉じた。


 泉が3日間いない?

 その話は一気にクラスに広がった。だが、全員この場合は楽観していた。なんてったって、田島はともかく(意外にもたまに三橋がストッパーになることが判明。これには全員驚いた)も、三橋のストッパーの「ハマちゃん」こと浜田がいるのだ。釣りバ○日誌のハマちゃんのごとく、沈んでいる三橋をつり上げてくれるだろう。
 実は、結構前のある日、彼らはこそこそと話しをしていたのだが。
 三橋を中心に、このクラスは動いている…というか、振り回されている。
 だが、実際蓋をあけてみると、三橋は全然あの3人以外、誰にも懐かない。野球部の試合の応援行って、三橋の「あの」活躍を見て驚かなかった者はいなかった。だから、そう、仲良くなりたいのだ。
「なぁ、あの性格ってさー。」
 クラスメイトAがじゃれあっている3人を見ながらクラスメイトBに言った。
「もう、絶滅危惧種じゃねぇ?」
「んじゃあ、ニッポニア・ニッポンってとこか?さしずめ。」
「そりゃいいや、ニッポニア・ニッポン。それでいこか。」
 うんうん。とクラスメイトD・Eがまぎれこんでくる。
「じゃあ、保護しているのは?」
「ニッポンだから…やっぱ陸・海・空?」
「じゃあ、奇襲のきく田島が陸軍で泉は…?」
「簡単だよ。海軍。」
「なんで?」
「空軍は7組の奴らに決まってるだろ?」
『なるほど。』
「でも…あの「阿部」ってヤツ、空軍だったらもろ「零戦」って感じだよな〜。」
 F〜Iがまぎれこむ。一人は軍事オタクだ。
「何で?」
「木葉落とし。高度なテクニックで三橋をどん底に突き落とす。」

わはははははははははははははははは

 どうやらクラスメイトは全員阿部を良く分かっているようだった…?
「じゃーさー、浜田にでも相談してさ、三橋と仲良くなるように作戦でも練ってみるか。」
『いいね〜え』
 その場にいた者全員が賛同した。
 計画名はまんま「ニッポニア・ニッポンと仲良くしよう計画」。浜田にも了解を得てある。泉がいなければ、田島と浜田で(田島は無意識に)三橋を持ち上げてくれるから、きっと仲良くなれるだろう。

(計画実行は明日。)

 明日は野球部はミーティングでよほどのことがないかぎり「空軍」の襲撃を受けることはない。

(了解、ブツは明日持ってくる)

 さぁ!明日が楽しみだ!

 野球部キャプテンの花井の携帯に田島から連絡が入ったのは、出かける3分前だった。
『どーした?』
『わりぃ、オレ、今日学校いけねーや。』
『はぁ?』

 青天の辟易…いや、霹靂。

『ケガでもしたのか?』
 大事な4番がケガをしたらそれこそ大事だ。花井の額に汗がにじむ。
『いーや、オレはぜーんぜん平気なんだけどさ』
 ふぅ。その言葉にとりあえずは安心。
『家族がさ、全員食中毒でホームランってなわけ』
『はぁ?』
『ひいじい、ひいばあはとりあえず入院。じいとばあとか全員寝込んでいるから、オレ、全員の面倒みねーといけねーの。』
『はあ…』
 何故田島は無事なのか?それを知りたい。
『だから、学校休むから。みんな安定したら行くからさー。』
『分かった。モモカンとかにも伝えておく。』
『おぅ!よろしくな!あと見舞いはいいから。全員ゲロまみれだから』
『…………分かった。』
 そいじゃーなー、とプチッと電話が切れた。
 はぁ、とため息をついて考える。今日は確か…

『!』

 泉も休み…なんじゃないか?
 9組の3人のうち、二人欠けたらどうなるのか、花井も想像がつかなか…いや。
(そうだ。浜田さんがいるんだ。)
 三橋も懐いている浜田さんがいれば、どうにかなるだろう。
 部活は栄口とオレと阿部でどうにかすればいいし、クラスも浜田さんにお願いすればいい。

 で、は、と気づく。
「い、行ってきます!」
 時間を少し過ぎていた。慌てて花井は飛び出した。

 田島が休み、というのは担任から聞いた。そして、次の言葉にクラスメイトは全員驚いた。
「ついで、浜田も休みだ。」

 えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ

 クラス全員(三橋を除く)が叫んだ。
「浜田は何で?」
「風邪で40度の熱だと。」
 あっけらかんと担任は言う。それは…文句が言えない。だが、昨日まであんな元気だった浜田が?とも思う。だけど、田島と三橋だけ、という最悪の状況を回避したい気持ちはあるはずだ。
 一番後ろの席のクラスメイトが浜田にメールを打っている。その返答も待っているが…


 担任が去った後、中心人物が、言った。「作戦決行」と。


「考えてみろ。止めるヤツがいないということは、何をしてもいい、ということでもないか?」

 確かに。

 速やかに女子に指令が飛んだ。

「三橋…くん?」
 田島くんも泉くんもハマちゃんもいない。どうしよう。とぼんやりと思っていた三橋はいきなりクラスメイトに話しかけられ、驚いた。逃げよか、どしよか、あたふた、あたふた、きょどきょど。
「大丈夫だよー。三橋くん、いいものあげるから。」
 置かれたのは、昨日田島くんに飲まれてしまったマンゴーラッシー。
「え…?」
「いいのいいの。飲んで飲んで。…で、あとついでに、これも飲んでみて。」
 と、女生徒はパチンと一錠の薬を三橋のごつい手のひらに置いた。
「な…なに?」
「今、誰もいなくてドキドキしてるでしょ?」
 え、何でわかっているの?という顔をモロに見た女子生徒はもう少しで吹き出しそうになった。子犬っぽい。
「だから、それを落ち着かせる薬だよ。」
 にっこりと笑みもつけた。さぁ、どうだ。
「あ…ありがとう。の、飲むね。」
「うん。」
 飲め、さぁ、飲め。
 三橋は気づいていなかったが、クラスの視線が今、三橋に集中していた。声もあげていない。しーんと静かな中、三橋はマンゴーラッシーにストローを入れ、一口口に含んで、ぽいっと薬を入れて、また一口マンゴーラッシーを飲んでごっくん。
「これで大丈夫だよ。」
「あ、あ、ありがと…。」
「今日もガンバロね!」
 ばいばい、と手を振って、女子生徒は去っていく。三橋はふぅ、と息をつくと貰ったマンゴーラッシーを飲む。ちるちる。大人しい。非常に、大人しい。

 薬を持って行った女子はグッと親指を出した。クラスメイトも無言で親指をだす。
『酒飲んだ後風呂入ったまま朝まで寝てた』と浜田からメールが入ったのは、その2分後のことであった。

 くわぁ、と一つあくびしたのは覚えている。その後が全く記憶にない。

 気づいたら、お昼休みだった。しかも、クラスメイトに起こされて、だ。

「お昼は?」
「…お弁当。」
「じゃあ、食べよう。次は音楽で歌のテストだよ。」
「テスト…。」
 頭がぼんやりして何も考えつかない。とりあえず、お腹はすいているので、お弁当箱を取り出す。と、クラスメイトが手を引いて、他のクラスメイトたちがいる机の輪に入れてくれた。
 お弁当の中身を交換したような気がする。
 話しかけられたような気がする。
 答えたような気がする。
 面白くて笑ったような気がする。
 頭の中、ぼんやりして、良く分からない。
「三橋、音楽室行くぞ。」

 みんな、やさしいなー。

 のろのろと音楽の教科書を机の中から引きずり出しながら、ぼんやりと三橋は思っていた。
 立ち上がると、誰かいて、待っててくれてる。何か夢みたいだ。
 一緒に移動する中、みんなの話し声を聞きながら、三橋は「ウヒ」と小さな声で笑った。


 あー、今日はミーティングで良かった〜。
 クラスの中心人物は冷や汗をかいていた。
 音楽が終わり、教室へ戻ると、三橋はまた寝てしまった。さもありなん。健康優良児に副作用にもれなく睡眠がついてくる精神安定剤(後にきいたが、精神病にかかった人が2錠飲んで眠くなってふらふらになるくらいの強い薬だったらしい)を三橋に与えてしまった。クラスメイトが「精神安定剤もらってきたよー」という言葉を信じたからだ。
 だが、ぼんやりしながらも「普通の会話」が出来たのは嬉しかった。
 好きなもの、嫌いなもの、勉強のこと…三橋は、ぽやぽやとしながらも答えた。そして誰かの馬鹿話で笑うと一緒に少しだけ笑った。それだけでも嬉しかった。
 音楽の授業は歌のテストで、「三橋は歌が非常にうまい」ということが判明した。照れ、とかが全て吹き飛んでいるからだろう。自然体で、ゆるやかに歌った。合唱部の女子が「野球部のエースじゃなかったら絶対に勧誘してたーっ!」と叫んだほどだ。
 HRがもうすぐで終わる。掃除が済むと、空軍がやってくる。そして、三橋の異常に気づくだろう。5時間目と6時間目の間に7組の部長に言っておけば良かったか?と思う。まぁ、無理だろう。零戦がいる。とりあえず、来たら素直に三橋を渡そう。

 でも。

 楽しかったなー。


 とりあえず、一日目は終わった。
                                                    おしまい☆
                                                            たぶん、あげた薬は○キ○タ○かと…