実は、1年9組のクラスのほぼ全員が、とある3人組にこっそりと注目していたりする。

 一人は歩く大騒動 田島。
 一人は歩く毒吐きストッパー 泉
 一人は常時挙動不審 三橋

 彼らはいつも一緒。お弁当食べてる時も、何する時も一緒。こらまた仲のいい3人組である。
 なお、田島と三橋に話がある場合は泉に最初にアポをとっておくというのは基本である。田島は脱線するか大暴走するか。三橋はキョドるか泣くからだ。

 良くも悪くも目立つ3人組。


 あ、あれ?この場には今、いないようです。どうしたのでしょうか?



「さぁ、はじめましょうか。」

 3月13日。ホワイトデーの前日。

 1年9組の女性が決起した。


 と、その前に話は数日前にさかのぼる。
 阿部と花井と田島と三橋が9組のクラスに入った時、廊下側の最後列に座っていた女子が「あ、お金早く払って!」と声をかけたのだ。

 三橋に。

「え、あ、う…… ?」

 わき上がる疑問符。田島も顔がクエスチョンマークになっている。
 と、その隣にいた女子が「バカねー、三橋君は男でしょーが!」とツッコミを入れてくる。
「…あ、ああああああ、そうだった。ごめんねー、三橋くん。何でもないから。」
 ささ、入ってはいって、と促され、4人は入る。
「…なんだろ ね?」
「さぁ。」
 そう言いあいながら、田島の席へと集う。サインの復習をする為だ。田島はどうであれ、三橋にはこれでもか、というくらいサインが多い。9分割に4つ(?)の変化球、速球か高めか低めか、色々ある為、たまに復習するのだ。田島はその付き合いで一緒に覚えてくれる。間違えた時の阿部のストッパー役であり、牽制役でもある。なお、花井は阿部と田島が険悪になった場合のストッパーである。
「じゃあ、はじめるぞ。」
 おぅ、と3人は頷いた。




 浜田が中心になってえっちらおっちらと男の料理をしていた時と違い、女子のお菓子作りはスピーディだった。あとおしゃべりも。
「えーっ、やっぱ玉砕だったの?」
「そーなの。だからなんかあいつらがくれたチョコが妙に美味しくてさー。」
「そうなのよ。浜田くんだろーけど、妙に美味しかったよね、あのチョコ。」
「今度レシピ訊こうかな?」
「そうしよっと。」
「ちょっと待った。来年は誰にあげるのにゃ〜?」
「ひみつー」

 きゃぴきゃぴ きゃいきゃい

 女子は凄い勢いで喋り、あっという間に作り上げた。
「じゃあ、これはサランラップでくるん、とくるんで、色ゴムでしばって、できあがり〜♪」
 きゃー☆と歓声があがる。
「名前書きたい子は書いてよし。というか、明日は手渡しだからねー。ケンカはご法度。一番乗りの人が渡す権利有り、だから。…ただし、走らないこと。走ったらアウトだからね。」
 全員。こっくりと頷く。
「さぁ、仕返しさせてもらおうじゃない♪」

 うふふふふふふ、と女子代表が笑った。



 3月14日 ホワイトデー。

  オトコノコもオンナノコもハートはドキドキ☆な日である。
 お返しが返ってくると嬉しい。本命(しかも目をつけていた男の子)だとさらに嬉しい。もう言うことナシナシの日でもある。
 だが、貰えないとどん底まで落ち込む日でもある。

 4時間目の授業が終わり、「起立、礼」の言葉の後、いつものどかな昼休みになるのだが、今日は違った。
 女子全員が立ち上がり、いきなり教室を出て行ったのである。

「どしたんだろ?」
「集団ヒステリーかもよ?」
「し、しゅうだん…?」
 机を合体させながら田島と泉と三橋はそう言い合っていた。


 香ばしい香りが漂ってきたのは15分を超えたころであろうか…。

「あ、何かいいにおいしねぇ?」
 食べ終わった田島が半分寝ながら泉に尋ねる。
「…そうだなーふわぁ。」
 あくびしながら泉も答える。自分の席に戻って寝る準備を始めている。
「…ココアのにおい だぁ…」
 すでに睡魔に意識を殆ど乗っ取られていた三橋だが、食欲は睡魔も少し退散させる強さを持っているらしい。


「はーい☆1年9組の男子どもー♪」
 女子が一人、教室に入ってきて、教壇の中央に立つ。
「今日は何の日か知ってるよね?」

 (なんだろ…)と思っていたのは三橋だけであった。完全にぼけーっとしている。

「そう、我らが特別な日、ホワイトデー!」
 そこで数人、何か気づいたかのようにがばっと立ち上がる。
「一月前にもらったチョコレートのお返し…してもいいかしらん?」
 3人が同時にしなをくねっとつくって尋ねる。

『おおおおおおおお!』

 その声に三橋はギョクッと飛び起きた。
「はーい、三橋くん、熱いから気をつけてね。」
 手渡されたのは、紙コップに入ったアツアツのココアとマドラーと…マシュマロ。
 こぼれなかったのが不思議なくらいに早歩きで歩いてきて、そっと三橋に手渡した(ほぼ同時にもらった泉は「ちっ」という声も聴いたような気がしたが気にしなかった)。
「甘いの苦手なヤツも多かったみたいだからー、ココアには殆ど砂糖がはいってませーん!」
「だーかーらー、マシュマロをココアの中に入れて、?き回してね。マシュマロはやや甘めに作ってあるから〜!」
 女子の声に「すげー」「さすがー」との声があがる。
 三橋はさっそく渡されたマシュマロを1個口に入れた。むにゅむにゅしてて、ふわふわしてて、きゅっとしてて…甘い。
「おいしい ね。」
 田島に言うと「おぅ!ココアの中にマシュマロ入れて?き混ぜてみろ!すげーから!うめーから!」
 田島の言葉に習ってココアの中にマシュマロを4個ほど入れてみる。あのむにゅむにゅのふわふわのきゅっ、がどうなるんだろう。
 もはや三橋の睡魔は完全に去っていた。
 田島が振り向いて「お、そろそろいいころじゃん。熱いけど、1個たべてみろ。」
 少しクリーム状になったマシュマロを1個、マドラーで取って、口に入れる。ちょっと熱かったけど…
 むにゅむにゅしてて、ふわふわしてて…とろりとして…
「おいし い。」
「うまいよなー。」
 田島はラップにくるんであったマシュマロを全部ココアの中に放り込んだ。三橋もそれにならってどばどばとマシュマロを放り込む。
 ぐるぐるっと回しては1個食べ、またくるっと回しては食べる。
「どう?」
 田島と三橋に女子が数人訊ねてきた。
「おぅ!うまいぜ。サンキュな!」
 いつも元気な田島は元気に礼も返す。
 三橋は…もじもじしながら…
「お…おい…おいし…で す。ありがと う。」
 と答えた。
「二人にそう言われると嬉しいわー♪」
 きゃぴきゃぴと手に手を取って喜ぶ姿。もっとでかい集団は浜田のところだ。浜田はチョコレートのレシピを教えているらしい。全員、ノートとシャーペン持参である。
「おーい、なんでココアなんだー?」
 一月前も同じように水谷がやってきた。
「ホワイトデーだぞ!」
 田島が楽しげに言いながら最後の一口を飲む。
「女子がマシュマロと一緒にココアをごちそうしてくれたんだ。」
 泉が素っ気なく最後の一口を飲む。
「う、うまそーじゃん。一口くれよー。」

 水谷の手が三橋の半分残ったココアに伸びた。が、三橋の手はそっぽを向いた。さもありなん、彼は食欲大魔神でもある。
だが、そこから出てきた言葉はちょっと違った。
「1年 9くみ の ホワイトデー だ だから…ダメ、だ よ。」
 その言葉をしっかりと聞いていた近くにいた女子が「三橋くんオトコーっ」と言いながら大騒ぎ。
「確かにオトコだ。」
 田島もびっくり。
「うん。オトコだ。」
 泉もちょっとびっくり。

「結局…飲ませてくれないわけね…。」

 オレも9組入りたかったよ…と呟く水谷であった。


                                                    おしまい☆
                                                            三橋、オトコ!