
実は、1年9組のクラスのほぼ全員が、とある3人組にこっそりと注目していたりする。
一人は歩く大騒動 田島。
一人は歩く毒吐きストッパー 泉
一人は常時挙動不審 三橋
彼らはいつも一緒。お弁当食べてる時も、何する時も一緒。こらまた仲のいい3人組である。
なお、田島と三橋に話がある場合は泉に最初にアポをとっておくというのは基本である。田島は脱線するか大暴走するか。三橋はキョドるか泣くからだ。
良くも悪くも目立つ3人組。
さて、今日は何をするやら…
「はーい、ちゅーもくちゅーもく」
パンパンと浜田がホワイトボードの前に立って全員の視線を集中させた。
「これよりチョコレート作り、開始しまーす。」
それは2月14日を前日に控えた午後のことであった。
バレンタイン・デー
オトコノコもオンナノコもハートはドキドキ☆な日である。
貰えると嬉しい。本命(しかも目をつけていた女の子)だとさらに嬉しい。もう言うことナシナシの日でもある。
だが、貰えないとどん底まで落ち込む日でもある。
その打開策、として。
「オレらでチョコレートをつくっちまおう!」という浜田の呼びかけに、クラスの男子全員がほぼ全員参加することになったのである。
「オンナノコたちがどれだけ大変なのか、この目で確かめてやろーじゃん!」とか「食えるヤツ作ろうぜ!」とかノリノリである。
「はいはーい。では役割分担。」
その言葉に全員がまた浜田に集中。
「お前とお前ら、前準備。お前ら、チョコレートを溶かす。お前ら………」
てきぱきと要所要所に人を置いていく。そして最後。
「三橋、田島、泉、毒味役。」
えーっという言葉とぐすっという声(?)が同時に響く。泉はうむ、と頷いている。
「田島、さっき何しようとしてた?」
「え?試しに作ってみようと…」
のほほん、と田島が答える。
「直火にチョコレートあぶって溶けると思うか?フツー…?」
「え、違うの?」
「…………………」
何も言えない。言う気力もない。
「三橋は、野球部のエースだろ?火傷とかしたら…ほら、阿部にオレ、殺されるから。」
えぐえぐと泣いている三橋を宥めながら浜田が説得する。
三橋が泣いている理由は違う所にある。
三橋は田島より要注意なのだ。あらゆる意味で。
家庭科室に入ってエプロンをつけた。みんな母親から借りてきたシンプルかつ地味な色のそれ。
だが、三橋は違った。
母親に説明したら、「なら私の一張羅のエプロン貸してあげるわ!」と押しつけられた、それ。
フリフリ、レース、いっぱい、真っ白の、それ。
それを何の躊躇もなく着る三橋もすごいが…問題はその後である。
「三橋、それ取って。」
「…う、う、う ん。」
がらがらがら
「三橋、ちょっとこれ洗ってみて。」
「…う、うん。」
がらがらがっしゃーん
…三橋には何もさせないことを浜田はこの時心に誓ったのだ。落とし、割り、材料ごと転びそうになるたびにだんだんと彼の超ネガティブ思考が働き、ついには泣き出してしまったのは10分前である。
ヒラヒラの白いエプロンは三橋にはマッチしすぎた。細身、顔も男前とは言えない。髪の毛はふわふわの茶色。それがぐすぐすと泣いている。まさしく「愛妻料理失敗しちゃったばかりの新婚奥様」の姿そのものである。
三橋が泣きながら座った所で写メしているヤツが何人かいたが…楽しんでいるのだろう。たぶん。
「そーそー、三橋、美味いか不味いか、お前らの舌にかかってんだからなー。」
たとえ彼が出されたものを全て「おいしい よ。」と言う人格でも。
「田島と三橋と泉のぶんはオレがちゃーんと美味しいヤツ作ってやっから、な。」
「やっりー!」と隣で田島がはしゃいでいる。その上昇気流に乗って三橋も泣くのをやめた。おづおづと顔をあげてくる。
「だから、待ってて、な。」
こくり。
三橋は、頷いた。
作業は全て完了した。一人1個、何のマークでもいいからアルミ製型抜きを持ってこいという命令に逆らった者はいなかった。
「いいか?どーせオレらにはラッピングなんてこたぁ出来ない。だから、この型抜きに名前を書いて、女子に勝手に貰ってもらう。運が良ければ話のネタに。運が悪くてももう一つ作った自分のをみんなで食べるんだ!怖じ気づくことはない!」
『おおーっ!』
「さて、と。では最終段階。三橋、田島、泉。」
浜田はハート型に抜いたチョコをパキッとうまく3等分に割り、3人に手渡す。
「毒味役、いけっ!」
田島と三橋と泉は「いっせーのっ、せっ!」で二人同時に食べた。そして
「おいしい よ。」
「うめーっ」
「甘さ控えめ、これはいいね。」
同じ意味の言葉が同時にあふれ出した。
「よっしゃ…これにて、男子救済チョコレート大作戦は終了だ。冷蔵庫も借りてあるから、明日の昼休みまで冷やしておけ。で、昼休みと同時にオレが回収して箱に入れて女子に渡す。あっけに取られるだろーなー、そう思うだろ?」
にやにや。
(三橋を除く)全員が同じ笑みを浮かべた。
「配り終わったら貰ったヤツも貰わなかったヤツも全員でチョコ食うぞー!」
『おおーーーーーーっ!』
1年9組男子の雄叫びがあがった。
「で、チョコレートなわけなんだ。」
昼休み、遊びに来た水谷が呆れた口調で言った。
昼休みの後半。それはもう乱痴気騒ぎ(男子生徒のみ)であった。
いつ浜田が作ったか分からないが可愛くラッピングされた大きな箱からひんやりとしたチョコレートが女子生徒各自一個ずつ配られる。名前を見つつ女子生徒たちは口々に「あたしたちの日を取らないでよー!」と言ったがそれでも嬉しそうだった。
配り終わった後。椅子と机を移動し、床に男子生徒はめいめい座ると自分たち用のチョコレートを片手に持ち、浜田の「ハッピーバレンタイン!」という言葉とともに食べ出したのである。これには女子生徒も驚いた。ついでに水谷も。
めいめいチョコレート作りの大変さを実感しあい、意気投合して「うまいうまい」と連呼しながら食べる。苦手な者は一口ぶんだけ割り、甘いもの好きに手渡す。実際、三橋の手元には5個のハートやら星やらひよこやらのチョコが一かけ割られた状態で置いてある。幸せそうに食べる三橋。いや、実際シアワセなのだろう。彼には珍しくにこにこ顔になっている。万事超ネガティブな所ばかり見ているので珍しいと男子も女子もちらちらと見ていた。
「たじまー、オレにも1個まわしてしくんない?」
水谷の言葉に田島はダメー、と一蹴した。
「だって、これ。」
「1年9組の、バレンタ イン だ、よ。」
はー、さいでっか。
水谷はぐったりとうなだれた。
おしまい☆
男が自分で作ったチョコを集団で食べる姿…漢だ。←ホントか?