実は、1年9組のクラスのほぼ全員が、とある3人組にこっそりと注目していたりする。

 一人は歩く大騒動 田島。
 一人は歩く毒吐きストッパー 泉
 一人は常時挙動不審 三橋

 彼らはいつも一緒。お弁当食べてる時も、何する時も一緒。こらまた仲のいい3人組である。
 なお、田島と三橋に話がある場合は泉に最初にアポをとっておくというのは基本である。田島は脱線するか大暴走するか。三橋はキョドるか泣くからだ。

 良くも悪くも目立つ3人組。

 その3人組が今日も休み時間に一生懸命頑張っています。

 いや。

 今は二人だーーーっ!



「今日、泉の誕生日だろ?」
 田島の言葉にうん、うん。と頷く三橋。二人とも今朝知ったのだ。
「何かあげないといけないよなー」
 田島の言葉にうん、うん。と頷く三橋。クラスメイトはこの時知った。
「さすがに…月末だから金ないし…」
 田島の言葉にうん、うん。と頷く三橋。月末は誰でもピンチだ。
「なにがいいだろう…」
 田島の言葉にうーん、と首を傾ける三橋。

 おお、三橋は話しを聞いていたんだ!

 この二人の馬鹿っぷりはあまりにも気持ちのいいモノだったので、少し不安だったのだ。

 クラスメイトたちは心の中でほっと息をついた。



 泉は、この二人のストッパーである。泉がいない場合、このクラスは恐慌状態に陥る。
 一度、泉が家の用事で休んだことがあった。その時…

 1限目は比較的大人しく…寝ていた。
 2限目は大人しく…早弁していた。
 3限目は騒がしく…田島がいびきをかいて眠り、後ろの席にいた三橋が一生懸命起こそうとしたら「うるせーっ!」と寝ながら手を振り払われ、それに驚いた三橋がしくしく泣き出し、授業が中断した(この時は田島のみが授業後に教師に呼び出されたが、他の生徒の「オネガイシマス、センセイっ」という無言の視線に気づき、早々に退散した。無論、泣き続ける三橋を田島に止めさせるためである)。
 4限目はまだ少ししゃくりあげている三橋を気にして、さかんに(本人は)こそこそと話しかけている(しっかりと後ろを向いて)田島にチョークを投げた教師が振り向きざまに田島に三橋のノートで打ち返し、見事教師の額にヒットさせ拍手喝采を起こし、授業にならなかった。で、ノートを奪われ、瞬間的にきつくぐるぐると巻かれたノートをぽいっと返された三橋はまたここで泣く。また謝り倒す田島。もう完全に授業にならない。
 昼休みは珍しく7組と1組から野球部の部長・副部長である花井・阿部・栄口が来て、とりあえず少しの間(田島がメシ食っている間のみ)静か。その後、花井が田島を叱り(どうやら教師は赤くなったデコ押さえ、部長に言ったらしい)、栄口がまだ目が赤い三橋を宥めたかと思ったらもう一人がぼそりと言ってキョドり、また泣く(今度は4人がかりで泣きやませたので比較的短時間で済んだと思いきや、また一言言ってキョドり泣き出した為、花井と栄口と田島がギャンギャンと集中砲火を浴びせ、その声に脅えた三橋がさらに泣き、今度は3人で泣きやませた)。その声の大きさと騒がしさに9組は全員、彼らから視線を外すことが出来なかった。お叱りを受けた…はずの田島は元気そうにギャハハと笑いだし、三橋からようやく涙が消えたころ、予鈴が鳴る。野球部首脳陣はため息をつきながら二人を置いて出て行った。
 5限目はお腹がいっぱいになったので、静かに二人は眠っていた。
 6限目は体育だったので、一直線に大暴走する田島と斜め仰角45度程度さりげなく暴走する三橋を止める者は誰もいなかった…。
 SHRなんて上の空、二人の頭にはもう野球しかない。「きりつ、れい」の「い」のところで二人は荷物を持ってダッシュして駆けだしていた。隣に続いている8・7・6組の担任から次々と顔を出され「廊下は走るな!」と怒鳴られながら…。
 もし、この時、泉がいたならば…

 3限目からは違っていただろう。いびきをかいて寝ている田島を起こそうとする三橋を泉は止めただろう。
 4限目は三橋が泣いていないのでヒットはでなかったはずである。
 昼休みは3人で仲良くぎゃんぎゃんとしゃべりながら(たまに三橋がキョドるが、二人がかりで止める)、食事。
 5限目は大人しいのでパス。
 6限目はあの小柄な身体にどこにそんな力が?と思うくらいの勢いで暴走する田島の頭を殴り飛ばして止め、ふらふら〜っと横に脱線していく三橋を支えただろう。
 SHRは彼らの為に聞き…でも、野球部だからか、「きりつ、れい」の「い」の所で3人は荷物を持って立ち上がる。だが、ダッシュしようとする二人の首ねっこをむんずとつかみ、とりあえず小走りで走らせる。


 そうなのだ。

 泉は、

 このクラスに

 いなきゃいけない者なのだ!


「おーい、田島、三橋」
 救世主は、浜田。留年したという噂の人である。
「なーんだー?」
 三橋は(何故だか分からないが)野球部員ではない唯一の普通の人(考えたらこの人も応援団結成したりして野球部に貢献してたからか?)である浜田を見上げる。
「お前ら、次の授業、寝てるだろ?」
 二人同時に頷く…おいおい。
 さすがに苦笑を浮かべながらも浜田は次の言葉を出す。
「なら、内職を頼めないか?」
 はぁ?と二人の表情が同じになる。これは実は結構珍しい。
「泉の誕生日だろ?実は…」
 じゃーん、と言って、浜田は未完成だが「それ」を披露する。「うぉー」と二人は素晴らしいとぱちょぱちょ拍手する。
「これの…これを作ってほしいんだ。…それくらいはできるだろ?」
 二人とも、野球以外は不器用だ。だがそれは、ハサミがひとつあれば出来る。
「浜田ー。俺にもそれ、一口乗らせてくれよー」
 その時、他のクラスメイトから声があがった。「うひょっ」とビビる三橋の左肩を叩いて「どうどう」と落ち着かせる。
「俺もー」
「あたしもー」
 クラス中から声がかかり、さしもの浜田も驚く。だが。田島はやっぱり田島だった。
「なら、ゲンミツにぜーいんでやろーぜ!ゲンミツに!」
 その時、ガラッと扉が開いて、泉が入ってきた。トイレついでにどこかへと寄っていたらしい。次の授業の教科書が左手にある。
「…な、何だ?」
 いきなり視線の集中砲火を浴びて、泉は少しビビる。だが、次の瞬間には
『おーっ!』
 という言葉と「ニシシ」という田島の笑い声と「ウヒッ」という三橋の笑い声が耳に入った。


 1限目。泉を除く全員に、浜田は役割分担を与えたメモを回した。
 2限目。そのメモにあわせ材料を調達。ただし、三橋と田島は後にまわされる。この時間は彼らにとって早弁の時間だからだ。
 3限目。その材料をもとに、全員内職開始。
 4限目。内職終了(三橋を除く)。
 昼休みは3人でいつもの食事風景。浜田はクラスメイト数人とどこかに行って仕上げの準備段階。
 5限目。三橋の作業が完了。浜田にそっと手渡される。
 6限目。浜田、姿を消す。

 SHRになって、担任が現れる。と、後ろに浜田も姿を現す。両手には…丸いもの。見慣れた硬球の姿をしている。直径は60センチか?
「あー、連絡事項は特になし。で、浜田から話があるようだ。」
 担任はそれを言うと浜田に教壇を譲る。
 三橋(は無論キョドる)以外、全員ニヤニヤかニコニコ笑い。…泉を除く。
 浜田は教師よろしくコホンとわざとらしい咳払いをすると全員を見渡すようにしてから口を開く。
「えー、本日はお日柄も良く…」
「早く始めろー!野球行くの遅くなるだろー!」
 天然の片割れ、田島が早速チャチャを入れる。「あー、あー」コホンコホン。咳払いをして、浜田はまた口を開く。
「今日は我々9組の人間にとって、なくてはならない人の誕生日です。」

 おぉーっ!

 その思いだけは確かだった。
「なくてはならない人、それは泉 孝介くんの誕生日ィ」
 

 おおおおおおおおぉぉぉぉぉ!


 割れんばかりの拍手喝采。赤面する泉。
 浜田が右手をあげると同時に流れてくる安物のキーボードの音。合唱部に所属する女子たちが昼休みに部室から借りてきた物である。曲は無論。

「はっぴばーすでー いーずみー
 はっぴばーすでー いーずみー
 はっぴばーすでー でぃあ いーずみー

 はっぴばーすでー いーずみー」

 最後は合唱部の女子がキメて見事2部合唱。わーわーわーと再度拍手喝采。三橋も嬉しそうに手を叩いている。
 穴にあったら入りたいと思っている泉の頭上に、それが高々と掲げられる。この組で一番と2番に背が高い者が長い柄のホウキで浜田がさっき持ってきたものをつり下げているのだ。
 はぁ?と思った瞬間、いつの間にか来ていた三橋と田島が「せーのっ」で紐を引っ張る。


 ぶわっ


 舞い散るものは…紙吹雪。というか、多すぎて、紙雪崩。それにもまたもや拍手喝采。
 くす玉か…と思った時、目の前に二人の姿。田島と三橋。
「浜田がさー、材料くれたんだ。だから俺たち、頑張って作ったんだよなー…って、隣に来い、三橋」
「うひゃ…う、うん」
 はい、と同時に手渡された物は…お守り?
「俺のはどんな球でも打てるお守り」
「お…俺のは…あ…う………」
「三橋のは、ワイルドピッチしないお守り」
 うんうん。と頷く三橋。
「俺たち頭悪いからさー」
 うんうん。と頷く三橋。

 おお、気づいていたか。と驚くクラスメイト一同。

「いつも泉にゃメーワクかけてると思うんだよなー」

 思うじゃない、かけてるんだっ。とツッコむクラスメイト一同。

「オレ…俺全然…だ…ダメだけど……投げるのは、へーき」

 そこで初めて、泉は二人の顔を見た。

 いつもオドキョドしている三橋にしては顔は赤いもののしっかりとした、投手の顔。
 いつもギャーギャー騒がしい田島にしては真剣な、4番バッターの顔。

 ガタタッと泉は立ち上がり、二人の差し出したお守りを受け取る。

 野球しか頭のない二人の面倒を見るのは本当に大変。受け取ったお守りもかなりボロボロのヨロヨロだけど、気合いだけはしっかりと詰まっていそうだ。

「ありがとう」

 二人を見て、しっかりとその言葉を言った。そして周囲に目を回し「みんな、ありがとーっ」と手を振った。

 おおおおおおおおおっ

 拍手喝采となって、しっかりと返事は返ってきた。…なんか、気のせいか、ある意味報われた気分になって、ほっとした。
「んじゃ、もっかい歌おうぜ!浜田ーっ」
「おぅっ」
 田島の声に素早く反応した浜田はキーボードを持っている女子に再度合図をする。さっき流れたメロディーが流れ出す。

「はっぴばーすでー いーずみー
 はっぴばーすでー いーずみー
 はっぴばーすでー でぃあ いーずみー

 はっぴばーすでー いーずみー」

 わー、きゃー、ぱちぱち、ぱちょぱちょ、様々な音が交錯する。廊下を見ると、花井、阿部、水谷他近隣のクラスの者たちが?然とした顔でクラスの中を見ていた。そーだよ。これが9組だよっ。投げやりな気分はない。ちょっと恥ずかしいが。

「お言葉、頂戴したいのですが?」
 隣に座っていたクラスメイトが、丸めたノートをマイク代わりににょっと突き出してきた。ふっ、と泉は笑う。
「今日はありがとうございますっ」
 えー、本当にっ。
「これからも、頑張ります!だから…」
 田島と三橋の押さえとして。
「だから…俺が居ない時は、諦めて下さい!」
 ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ、と三橋と田島と泉以外、全員が突っ伏した。
 ある意味、1年9組が一つになった瞬間でもあった…かな?



「…さ、最初に言い出したのは、ハマちゃん…だよっ」
 部活の後、泉は二人に問いただした。近くで着替えをしている阿部たちも耳をダンボにして聞いている。
「最初、浜田はくす玉の中見の…紙吹雪を作るかって持ちかけたんだ。」
 ニカニカと笑いながら田島は着替えをする。三橋はそのままの格好。二つ同時にできない性格なのだ。仕方がない。
「…で?」
 少しその言葉にキョドった三橋を「どうどう」と田島が押さえて話しを続ける。
「そしたら周りにいた奴らが次々とノッてきて、あっというまにクスダマ作りはやつらがつくったんだ」
 ま、俺らもつくったもんねー、ウヒッ、という言葉が次に続く。
「だーかーら、俺たちは少しだけ手伝って、あとはイッショーケンメーお守り作りしてたんだよなー、三橋」
 うんうん、と頷く三橋。お守り、と聞いて、周囲がざわつく。
「どんなお守りなんだ?」
 花井が訊ねてくる。少し引き気味に。
 泉は少し考えてから、二人を見て、ニヤッと笑って言った。
「ナイショー♪」
 こんな最高なプレゼント、誰が教えるか!

 そう考えると、泉はすごく幸せな気分になった。


 何はともあれ、ハッピーバースデー、泉。


                                                    おしまい☆
                                                            このクラス、実はこの3人あってこその結束力だと思う…